【基盤研究(S): 16H06384】 2016年度-2020年度


研究概要

近年、抗体や核酸などのバイオ医薬が急増しており、それらはもっぱら生物学的手法を利用して合成されています。その理由は、タンパク質、核酸、糖質から成る大・中分子化合物を効率的に化学合成する方法論が極めて少ないからです。

生物学的手法を用いて供給されているバイオ医薬品においても、現状では(1)単一化合物として純粋に合成できない、(2)薬価が高い、(3)構造修飾が容易でないなど幾つかの解決すべき課題があります。医薬品の製造という観点のみならず、今後の生命科学の発展を支えるためにも、所望の位置を化学修飾した抗体、ワクチン、受容体といった糖タンパク質を純粋、簡便かつ経済的に化学合成する優れた方法論を確立することは喫緊の課題です。しかし、既存の化学合成手法を用いると、高価な脱水試薬や反応基質を過剰に使用する必要があるため、目的生成物以上に大量の廃棄物が副生するという問題を抱えています。

本課題では、アミノ酸や単糖を穏和な条件下、廃棄物ゼロで合成しうる革新的な合成触媒と新規触媒反応を開発し、それらを組み合わせることで任意に構造修飾した大・中分子を精密合成できる合成化学的手法の確立を目指します。


研究の方法

糖ペプチドを持続可能な手法で合成するには、脱水剤や活性化試薬などを使用する従来法とは全く異なる新しい概念でアミノ酸や単糖をつなぐ方法論を創出する必要があります。我々は、この課題を解決するヒントとして、生合成機構やそれに関与している生体酵素(ペプチド合成酵素と糖転移酵素)に着目しました。環境にも生体にも優しい酵素の分子構造を参考に、安全でクリーンかつ安価に所望の分子を化学合成できる世界初の触媒・合成試薬の開発を目指します。

具体的には、カルボン酸を直接活性化することが知られているボロン酸に適切な官能基を組み込んだ新規触媒を設計し、β-アミノ酸の不斉合成法やアミノ酸の直接的なペプチド形成反応を探索します。触媒反応以外に生合成を模倣したペプチド合成についても検討する予定です。

一方、単糖ジオール部の選択的な活性化が期待できるボロン酸触媒に、続く2番目の反応基質の攻撃を立体選択的に行うための官能基を適切に配置することで、無保護の糖供与体/糖受容体間で行える位置および立体選択的なグリコシド化に取組みます。さらにアルコールと比べて求核性の乏しいアミドやペプチドを糖鎖に導入するN-グリコシル化については、ソフトなルイス酸性を有するハロゲン結合相互作用等を活用した新規触媒の開発を目指します。


期待される成果と意義

今後社会的需要が高まる環状ペプチド、オリゴ糖・核酸、糖ペプチドなどの中分子化合物を、廃棄物排出やエネルギー消費を最小限に抑制して合成するクリーンな製造技術が確立できます。小分子医薬品に比べて薬価が非常に高いバイオ医薬品を安価かつ大量に供給する道が拓けます。所望の位置を任意に化学修飾した糖ペプチドを単一構造かつ純粋に化学合成することが可能になるため、生命科学研究の発展に貢献できます。


組織

構成員

  • 研究代表 竹本 佳司

(1)非天然型中分子ペプチドの実践的合成法の確立

  • 特定助教 南條 毅(兼博士研究員)
  • 修士2年 張 旋
  • 修士1年 加藤 夏己
  • 学部4年 松ケ迫 樹

(2)新規ボロン酸触媒の創製と触媒反応への応用

  • 特任助教 道上 健一(兼博士研究員)
  • 修士2年 村上 弘樹
  • 修士1年 坂口 達彦
  • 学部4年 村上 翔

(3)天然物合成を志向した触媒反応の開発

  • 講師   塚野 千尋
  • 博士3年 安井 基博
  • 博士2年 平家 崇吉
  • 博士1年 黒瀬 朋浩
  • 修士2年 Tagwa Mohammed
  • 修士1年 山田 彩乃

(4)触媒的O-, N-グリコシル化反応と光励起型アミノ化試薬の開発

  • 助教   小林 祐輔
  • 博士3年 斎藤 真人
  • 博士2年 泉 早苗
  • 博士1年 中辻 雄哉
  • 修士2年 正門 宗大
  • 修士1年 木村 智弘
  • 修士1年 徳弘 佑介
  • 学部4年 藤村 光揮

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